2025.06.30-
多くの企業では、コスト削減や人手不足、生産性向上といった課題への対応が急務となっており、その解決策としてRPAの導入が注目されています。
実際、パーソル総合研究所が2019年に発表した「労働市場の未来推計2030」によると、サービス業、医療・福祉、卸売・小売、製造業を中心とした多くの業種で今後も労働力不足が深刻化することが予測されています。
このような背景からも、業務の自動化による効率化は、企業にとってますます重要なテーマとなっています。
出典:パーソル操業研究所「労働市場の未来推計 2030」(https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/spe/roudou2030/)
今回本記事では、製造業に焦点を当てて、RPA導入の成功事例や具体的な業務活用シーン、導入メリットを分かりやすく解説します。
さらに、導入を成功に導く7つのポイントもご紹介します。
製造業でのDX推進や業務自動化を検討しているが、具体的な方法が分からないという方は、本記事でご紹介する導入事例を、ぜひ今後のご検討にお役立てください。
目次
RPA(Robotic Process Automation)は、人の手で行っていた定型業務をソフトウェアで自動化することができる技術です。
近年、業界を問わず多くの企業が注目しており、特に人手不足や業務効率化が求められる現場では導入が進んでいます。
製造業においても例外ではありません。
一連の定型業務は、作業者の負担が大きくなりやすく、ミスのリスクも高いという課題を抱えています。
RPAを導入することで、手作業を自動化し、作業時間の短縮やヒューマンエラーの防止、従業員の負担軽減が可能となります。
内閣府の「令和元年度 年次経済財政報告」によると、製造業の 13.5% がRPAを導入しており、金融・保険(40%)、サービス業(16.5%)に次いで 3番目に自動化の取り組みが着実に広がっていることがわかります。
出典:内閣府の令和元年度 年次経済財政報告
(https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je19/h06_hz010405.html)を元に作成
昨今の働き方改革における業務効率化の推進や人手不足の解消を目的に、RPAの導入が急速に進んでいます。製造業では、品質管理や受発注処理、在庫データの入力といった定型業務が多く、業務の特徴などからも、RPAが効果を発揮しやすい業界といえるでしょう。
RPAの導入により、業務の効率化や人的ミスの削減が期待でき、限られた人材でも安定した生産体制を維持しやすくなります。
製造業では、人材不足やレガシーシステムの継続利用など、さまざまな課題を抱えているケースが少なくありません。
生産性や業務効率に大きく影響を与えており、早急な対策が求められています。その対策のひとつとして、RPAが注目されています。
本章では、製造業が直面している主な課題を紹介します。
厚生労働省の「2024年版ものづくり白書」によると、2023年における中小企業の製造業従業員の過不足DIはマイナス20.4となり、2019年以前と比べて人手不足の深刻化が明らかになっています。
採用課題が解決されないままでは、一人ひとりの業務負担が増加し、離職率の上昇を招く恐れがあります。
出典:厚生労働省の「2024年版ものづくり白書」
(https://www.mhlw.go.jp/content/11801500/001257990.pdf)
製造業では、業務ごとの工数が多いことが大きな課題です。
たとえば、以下の工程の所要時間は、企業の規模や製品の種類によって異なりますが、ここではあくまで一例としてご覧ください。
工程 | 所要時間 |
受注処理 | 15分/件 |
生産計画 | 1日 |
資材手配 | 数時間 |
製造・組立 | 数時間 |
検査・品質確認 | 1日 |
出荷準備 | 半日 |
納品 | 1日 |
上記の例をもとに業務を見直してみると、たとえば、1日30件の受注を紙で受け取り、システムに手入力する場合、入力に時間がかかるうえ、誤入力があればダブルチェックも必要となり、工数はさらに増加します。
加えて、業務が属人化していると、担当者の交代によって重要な情報が引き継がれず、手順や判断基準が不明確になることで業務が滞り、生産がストップしてしまうリスクもあります。
製造業では、現場のニーズに応じて個別の部署ごとにシステムが構築されてきた背景があります。
しかし、以下のように部署ごとに異なるシステムを運用していると、部門間での連携が取れず、情報の一元管理が難しいでしょう。
部署名 | システム名 |
生産管理部 | Aシステム |
在庫管理部 | Bシステム |
品質管理部 | Cシステム |
さらに、同じシステムを長年運用してきた企業では、開発者や運用担当者の高齢化や退職が進み、対応できる人材の確保や技術の引き継ぎに不安を感じるケースがあるかもしれません。ブラックボックス化したシステムは、引き継ぎが困難になるだけでなく、その後の保守や運用の継続も難しくなります。
経営層がDXを掲げて新たなツールの導入を進めても、現場では今のやり方に慣れているといった理由から定着せず、結果としてレガシーシステムに依存し続ける企業も少なくありません。
製造業の現場では、「不良品を出してはならない」という強いプレッシャーが従業員にかかることもあるでしょう。
特に、ミスをすれば取引先との信頼関係を損なうかもしれないという不安から、社員の精神的な負担につながるケースも少なくありません。
目視による検査に依存している現場では、疲労や集中力の低下がミスにつながるリスクが常に存在します。
さらに、検査やチェック工程が属人化している場合、他の担当者に相談できなかったり、休暇が取りづらくなったりすることで、業務が特定の社員に集中してしまう恐れもあります。
このようなことから、モチベーションの低下や離職につながる可能性があるため、早期の対策が重要です。
製造業においては、自然災害や感染症の流行など、突発的なトラブルによって生産活動が停止するリスクが常に存在しており、BCP(事業継続計画)対策の重要性が高まっています。
災害が発生すると、工場の稼働が止まり、製品供給に支障をきたすと取引先からの信頼を失い、契約が打ち切られる可能性も出てきます。
また、出荷ができず売上が上がらない期間が長引くと、資金繰りが悪化し、最終的には倒産リスクも高まるでしょう。さらに、災害発生時には、従業員の安否を迅速に確認できる体制を整備することが不可欠です。
誰が出勤可能か、どこに避難しているのかを把握できなければ、シフトの調整ができず、生産再開の見通しも立ちません。
緊急連絡網や安否確認ツールを事前に整備しておくことが求められます。
前章で解説したように、製造業ではさまざまな課題が存在していますが、RPAを導入することで、課題解決につながり、業務効率化の促進が期待できます。
本章では、製造業におけるRPA導入がもたらす具体的なメリットについて解説します。
RPAを導入することで、製造業における慢性的な人手不足の解消が期待できます。
新たな人材を確保し一定の水準まで業務対応できるように育成するには、時間とコストがかかりますが、RPAを活用すればこれらの負担を抑え、人的リソースの不足を補うことが可能です。
その結果、限られた人材をより重要な業務へと再配置でき、生産体制の維持にもつながります。
定型業務や繰り返し業務の効率化は、RPA導入の大きな魅力の一つです。
たとえば、Web-EDIで受信した注文データを基幹システムへ転記する業務がある場合、注文ごとに手作業で転記を行うと、時間がかかり、コア業務に集中できなくなります。
また、製品の個数を間違えて登録すると、生産後に顧客から返品を求められたり、損失が発生したりするリスクもあります。
RPAを導入することで、登録作業を自動化でき、入力ミスや確認漏れを防ぐことができるだけでなく、正確で効率的な業務遂行が可能です。
RPAを活用すれば、昼夜を問わず365日稼働させることができるため、業務のスピードが向上し、生産性の改善が期待できます。
たとえば、夜間担当者が翌朝に備えて出荷指示の帳票を手動で作成、印刷している場合、時間がかかり、業務の負担にもなります。
対応が朝までに完了していなければ、出荷スケジュールに影響し、配達遅延につながる可能性もあります。
RPAを導入すれば、これまで数十分かかっていた作業が数分程度に短縮される可能性もあります。
さらに、時間を問わず作業を行えるようになることで、業務の効率化と安定運用の両立も期待できます。
RPAを導入することで、人手に頼っていた定型業務や確認作業を自動化できるため、ダブルチェックなどの手間が削減され、業務工数を大幅に削減できます。
たとえば、在庫確認を目視で行っている場合、商品数が増えるにつれて集中力が低下し、確認ミスや見落としが発生するリスクが高まります。
もし在庫がないにもかかわらず「ある」と誤認して業務を進めてしまえば、出荷の遅延や顧客対応のトラブルにつながるでしょう。
RPAを活用すれば、システム上の在庫データを自動で取得し、在庫不足の商品を一覧化する処理や、関係者への通知を自動で行うシナリオの構築が可能です。
人的ミスのリスクを最小限に抑えながら、工数とコストの削減に貢献できます。
RPAの導入によって、従業員が行っていた受発注業務の入力などの手作業が自動化され、業務上の無駄なコミュニケーションが減少します。
たとえば、発注に関する確認を何度も繰り返す必要がなくなり、スムーズな業務進行が可能になります。
また、業務が属人化している職場では、担当者が休暇に入ると業務が滞ったり、休日にも対応しなければならないといった課題が発生しがちです。
RPAを活用することで、業務も自動化され、担当者が不在でも処理が進むようになり、休暇中の精神的な負担も軽減されます。
結果として、従業員はより柔軟に働けるようになり、ワークライフバランスの改善や離職防止にもつながる働きやすい環境の構築が期待できます。
RPAを導入することで、ヒューマンエラーが大幅に減少し、業務の精度が飛躍的に向上します。
たとえば、担当者によって品質検査レポートの内容にばらつきがあった場合でも、RPAがあらかじめ設定されたルールや手順に従って処理を行うことで、人による判断のブレがなくなり、常に同じ基準でレポートを作成することが可能です。
これにより、検査データの正確性が担保され、品質管理の信頼性と効率性が高まります。
さらに、RPAは人の作業よりもスピーディーかつ正確に業務を遂行できるため、ミスを防ぐだけでなく、業務全体の品質向上にもつながります。
RPAは、自然災害や感染症の流行といった非常時にも業務を継続できる体制づくりに貢献します。
たとえば、地震や台風などの自然災害によって社員が出社できなくなった場合、出社を前提とした業務フローでは業務が完全にストップしてしまう恐れがあります。
しかし、あらかじめRPAで定型業務を自動化しておけば、担当者が現場にいなくても業務が継続できる仕組みを構築することが可能です。
特に、クラウド型のRPAやリモート環境に対応したシステムであれば、在宅勤務中でもRPAが自動的に処理を継続できるため、業務停止リスクを最小限に抑えられます。
たとえば、品質検査の一部を目視で行っている工場では、災害時に検査が停止してしまうことで出荷の遅延や、未検査の製品が誤って出荷されるリスクが発生します。
RPAを活用することで、検査結果の自動判定や不良品のアラート通知が可能になり、現場が止まっても業務の一部は継続できる体制が整うため、BCP対策の一環としても非常に有効なツールです。
製造業では、現場だけでなく事務処理や管理部門でも多くの業務が発生します。
業務の中には、ルーティン化された作業やデータ入力など、RPAによって自動化できるものが数多くあります。しかし、「実際にどんな業務で活用できるのか」「自社でも活用できるのか」といった点は、イメージしにくいという声も少なくありません。
そこで本章では、製造業における具体的なRPAの活用例をご紹介します。
RPAは、生産管理や品質管理といった製造業の中核を担う業務においても、大きな効果を発揮します。
たとえば以下のような業務は、RPAを活用することで大幅に効率化できます。
実在庫とシステム上の在庫に不一致が生じた場合、確認と修正するためには手作業や目視による突合が必要です。
不一致が多いと他の業務を一時中断しなければならず、特に棚卸や定期的な在庫差異チェックが煩雑になると、業務全体の効率が大きく低下してしまいます。
RPAを導入することで、次のような業務の自動化が可能となり、確認作業の負担軽減に加えて、在庫管理の精度向上と効率化を実現できます。
・システムからの在庫データ自動取得
・在庫差異のある商品の自動抽出とレポート出力
生産計画や実績データを手入力していると、誤入力などのヒューマンエラーが発生するリスクがあります。
たとえば、納品日や製造数量を誤って生産管理システムに登録してしまうと、計画が進行してしまい、
社内での混乱を招いたり、最悪の場合、取引先に迷惑をかけてしまう可能性もあります。
登録情報 | 登録内容の例 |
生産計画 |
・どの製品を ・いつまでに ・何個作るか |
対策として、たとえば、社内の基幹システムから情報を取得し、ExcelやCSVファイルを自動で作成する。さらに、そのファイルから情報を読み取り、生産管理システムに登録する一連の処理をRPAで実現すれば、作業を効率的かつ正確に行えるようになります。
生産現場では、Excelなどに受注データを入力した後、さらに別のシステムに手動で転記するという業務フローが行われていることがあります。
担当者は二重入力の負担を抱えることになり、転記ミスが発生するとダブルチェックが必要になるなどの対応が求められます。
RPAを活用すれば、データを基幹システムに自動的に転記することができ、転記ミスのリスクを減らし、業務の効率化を図ることが可能です。
作業指示書や実績報告書の作成から印刷までには、以下の工程が含まれ、時間がかかるだけでなく、フォーマットへの記載ミスや印刷漏れといった課題が発生しやすいです。
作業指示書や実績報告書の作成から印刷までの流れ
①システムからデータ収集
②フォーマットへ必要事項を転記
③印刷
RPAを導入することで、指示されたデータや実績データを基に、自動的に指示書や報告書を作成できます。また、特定のフォルダへのPDF保存や、作業指示書の自動印刷が可能となり、工数の削減が期待できます。
製品の検査結果をシステムに入力する必要があるものの、検査数が多くなると入力ミスや記録漏れのリスクが高まります。
たとえば、検査結果が不良品だったにも関わらず、記録漏れが原因で出荷してしまうと、クレームや返品対応に時間を取られ、業務に支障をきたします。
RPAを活用すれば、検査結果を自動でシステムに登録することができ、ミスを事前に防ぐことが可能です。
さらに、異常値を検出した際には、管理者に通知を送信する設定もでき、品質管理の向上にもつながります。
不良品情報を手作業で集計し、選別後に報告書を印刷する場合、データの見落としや記載ミスが発生することがあります。
不良品の傾向やパターンを正確に把握できない場合、改善策の立案や品質管理の実施が遅れるリスクが高まるため、注意が必要です。
RPAを活用すれば、不良品情報を自動で収集し、あらかじめ設定した条件に基づいて分類・集計することが可能です。
レポートの自動作成にも対応できるため、不良品の情報を正確かつ迅速に管理できます。
請求や経理業務は、企業運営において重要な役割を果たしますが、手作業で行う場合、時間や労力がかかり、エラーが発生するリスクも高くなります。
RPAを導入することにより、これらの業務を効率化し、ミスを減らし、業務負担を軽減できます。
以下に、具体的な業務での活用例をご紹介します。
製造業における請求や経理業務では、売上データをシステムから抽出し、請求書のフォーマットに転記する作業に多くの手間と時間がかかります。
入力ミスが発生すると、請求金額の誤りが生じ、顧客に迷惑をかけ、信頼を失うといったトラブルを未然に防ぐことが重要です。
RPAを活用することで、売上データを自動的に取得し、請求書を自動作成することが可能となり、ミスを減少させ、作業時間を大幅に短縮することができます。
銀行から入金明細を取得し、売掛金データと照合した上で、入金情報を会計システムに入力し、差異があれば顧客に確認する作業は時間がかかり、慎重さが求められます。
特に企業のお金に関わる業務のため、ミスが許されず、高い集中力と心理的負担を伴うことが多いです。
RPAを導入することで、入金明細を自動で取得し、売掛金と照合する作業を効率化できます。
照合が一致したデータは自動で入力され、差異がある場合のみ担当者に通知されるため、業務の精度向上と時間の短縮が期待できます。
労務管理は多岐にわたり、手間や時間がかかる業務が多いため、効率化が求められます。
RPAを活用することで、社員の勤怠管理や給与計算、労働時間の集計などが自動化され、業務の精度向上と作業時間の短縮が実現します。
具体的な活用例をご紹介します。
打刻漏れや残業時間の超過がないかを確認するために、勤怠管理システムで集計や対象の従業員への通知が必要ですが、月末の忙しい時期には集計作業に時間がかかることがあります。
また、従業員が多い企業では、打刻漏れが多い場合、勤怠に関する通知を手動で送るのが手間となることがあります。
RPAを導入すれば、勤怠データの自動取得と集計が可能となり、作業時間を短縮できます。
さらに、対象の従業員に対してリマインド通知を自動で送信できるため、担当者はより重要な業務に集中できるようになるでしょう。
経営や営業戦略を立てる上で、競合他社の情報を収集することは非常に重要ですが、日々の業務に追われる中で、つい後回しになりがちです。このような状況を改善するために、RPAを活用した情報収集の効率化が有効です。
今回は、情報収集を効率化するためのRPAの具体的な活用例をご紹介します。
営業戦略を考える上で、競合他社の価格や新製品情報を把握することは非常に重要です。
しかし、複数のWebサイトを定期的にチェックし、得た情報をExcelなどに手動でまとめる作業は、手間と時間がかかるうえ、重要な情報を見落とすリスクもあります。
RPAを活用することで、こうした情報収集業務の一部を自動化し、必要な情報を漏れなく、効率的に整理することが可能です。
収集したデータを指定のフォーマットに整えて保存することで、営業戦略の立案にかける時間をより有効に活用できます。
工場では、機械が稼働した時間やエラー、停止の有無などの設備データを収集し、業務が滞る影響がないかを判断しています。
しかし、手動で設備データを集めるには多くの工数がかかり、担当者不在時の対応が難しいという課題もあります。
RPAを導入することで、設備から出力されるログデータを自動で取得し、レポートを自動作成することが可能です。
これにより、ミスがなくなり、正確な情報を基に早期に故障の兆候を発見できるようになります。
製造業でRPAを導入する際、技術面に注目が集まりがちですが、運用面や環境整備も同じくらい重要です。
本章では、RPA導入を失敗に終わらせないために気をつけるべき7つのポイントを紹介します。
RPAはすべての業務を自動化できるわけではありません。
どの業務を効率化したいのか、導入目的を明確にすることが大切です。
たとえば、問い合わせ対応を自動化したいと考えた場合、RPAでは対応が難しいケースがあります。
問い合わせ内容はパターン化されていないものも多く、人間の判断や柔軟な対応が求められるためです。
業務内容によっては、RPAではなく、AIチャットボットなどの他のツールが適している場合もあります。
目的が曖昧なまま導入してしまうと、期待した効果が得られなかったり、時間やコストを無駄にしてしまう恐れがあります。
まずは、自社がRPAに何を求めているのかをしっかり整理しましょう。
RPAを導入する前に、対象となる業務を洗い出し、対応方法を標準化することが重要です。
製造業の現場では、同じ受注入力作業であっても、担当者ごとにフローや操作手順が異なる場合があります。
たとえば、以下のように担当者によって作業手順が異なると、RPAで自動化するための共通のルールを作ることが難しくなり、開発の手戻りや運用ミスにつながるリスクがあります。
担当者 | 操作手順 |
担当者A | メールから注文内容をコピーしてExcelに一度転記後、基幹システムへ入力 |
担当者B | メールで注文があるたびに直接基幹システムに入力 |
担当者C | メールで受信した注文書を後でまとめて基幹システムに入力 |
このような状況を防ぐためにも、現場へのヒアリングや、実際の操作画面の確認を通じて、手順を洗い出し、どのやり方をRPA化の基準とするかを明確にしておくとよいでしょう。
一方で、「そもそもどの業務をRPA化すべきかわからない」と悩むことがあるかもしれません。
業務整理の段階でお悩みの方は、RPA導入時に対象業務を選定する際のポイントをまとめた、以下の資料をご活用ください。
RPA化対象業務選定のポイントと業務可視化のメリットとは
※業務棚卸し/シナリオ作成準備シート付き
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RPAで効果を上げるためには、導入前に「誰が、どのように」運用・活用するのかを明確にしておくことが重要です。
運用体制やルールが曖昧なまま導入を進めると、以下のような問題が発生する可能性があります。
・RPAのシナリオが社内で乱立する
・不具合の原因が特定できない
・管理者不在で誰もメンテナンスできない
運用体制の整備ポイントは以下の通りです。
項目 | 内容の例 |
管理部門 |
RPAのシナリオや稼働状況を把握、管理する部署 |
担当者 | シナリオを作成や修正、運用する人を決める |
アカウント管理 | 誰にRPAアカウントを付与するかを明確にする |
RPAツールは多機能で高度なものほど操作が複雑になります。
現場の担当者が使いこなせなければ、導入しても使用されず、現場への浸透が進みません。
現場にITスキルを持つ人材が少ない場合、「誰でも操作できる」ツールの選定が非常に重要です。
たとえば、製造現場にITに詳しい社員がいない場合でも、パソコンにインストールして使用するデスクトップアプリケーションや、デスクトップ型のRPAツールであれば、パソコン1台で導入することができ、さらに、ドラッグ&ドロップ操作で直感的なUIで扱えるツールも多いため、有効な選択肢となります。
現場で実際に操作する人が使用しやすいと感じることが、スムーズな導入と運用には欠かせません。
RPA導入を成功させるためには、いきなり全社の全業務に導入しようとせず、スモールスタートで開始することが重要です。
初めから複雑で難易度の高い業務を自動化しようとすると、構築に時間がかかり、思ったような効果が得られないリスクがあります。
また、新しい取り組みは周りから軽視されやすく、RPAがうまくいかないという印象を従業員に与えてしまうと浸透しません。
まずは、取り組みやすく、たとえば、以下のように優先順位をつけて、短期間で成果が見えやすい業務から着手しましょう。
業務内容 | 操作手順 | 優先順位 |
注文書データをシステムへ自動入力 | 導入が簡単で、手作業での入力ミスも減らせる |
A |
顧客へメールを自動送信 | 定型的な返信内容は自動化しやすい | B |
品質検査で不良品を識別 | カメラやAI連携が必要で、導入難度が高い |
C |
難易度が低く、効果がすぐに実感できる業務を優先的に選定することで、社内にも「RPAは便利だ」という実感が広まり、次のステップへスムーズに移行できます。
RPAは導入しただけで終わりではなく、継続的に効果の検証と改善を行っていくことが非常に重要です。
成功させるためには、RPA推進担当者と現場担当者がスムーズにコミュニケーションを取れる体制を整えることが不可欠です。
たとえば、RPAによって売上データのレポートを自動作成する場合、以下のようなやり取りが必要になります。
フェーズ | 内容 |
運用してみての課題 | ・自動作成されたレポートに誤った数値が含まれていた ・作成のタイミングがずれていた ・意図しないファイル形式で保存されていた |
改善策の検討と実行 | ・エラーの原因を特定し、シナリオの記述を修正 ・間違ったトリガー条件を見直す ・ファイル出力形式の指定を明確に設定し直す |
共有と記録 | ・修正内容と改善策をRPA推進担当と現場で共有 ・ナレッジをクラウドで管理し、他部署展開の参考にする |
継続的に効果を検証し、改善を重ねていくことで、RPAの効果を最大限に引き出し、他部署への展開もしやすくなります。
製造業において、他社がどのようにRPA(WinActor)を活用し、業務を効率化しているのか気になる企業も多いかと思います。
そこで、実際に導入されている事例を3つご紹介します。
株式会社藤田製作所様は、基板の実装、組み立て加工、ハーネス加工などの事業を展開されている企業です。
製品の受注処理から製造指示書作成までの一連の業務をRPA(WinActor)で自動化しました。
具体的にはシステムやデータベースへの取込み、指示書の出力までを自動で行い、1日あたり40分、年間9,600分の工数削減を実現しました。
また、ケアレスミスや印刷漏れの解消にも繋がり、品質の向上にもつながっています。
導入前には事務作業の見直しが行われ、データ管理や手順の標準化が進められました。
さらに、サーバへの保存ルールを整備したうえで、現場では月6件のRPA作成を目標に活動を開始し、最終的にはWinActorを活用し、1年間で54の業務をロボット化、年間1,850時間の工数削減に成功しました。
詳細は以下をご覧ください。
製造業におけるWinActor活用のコツとは /株式会社藤田製作所様
カンロ株式会社様は、「カンロ飴」をはじめ、キャンディやグミなど、糖を基盤とした事業を展開されている企業です。
経理部では、家賃など支払依頼伝票の起票作業をRPA(WinActor)で自動化しました。
結果として、毎月約230分かかっていた作業が年間2,760分(約46時間)削減されました。
さらに、これまで拠点ごとに異なっていた処理方法を統一し、業務の標準化を進めています。
RPA導入に際しては、対象部署に対し業務分担表の確認やExcel転記作業の有無を丁寧にヒアリングし、
自動化しやすい単純作業や象徴的な業務を洗い出しました。
また、効率化の見込みが高い業務ではなく、自動化しやすいものから取り組むことが成功のポイントです。
詳細は以下をご覧ください。
“人材育成を意識した”RPA導入の取り組み/カンロ株式会社様
株式会社ダイナックス様は、自動車部品製造企業で、乗用車のトランスミッション(変速機)に組み込まれている摩擦機能部品の製造・販売を行っている企業です。
同じ試験でも担当者によって製品評価レポートに差が出ることを課題として、RPA(WinActor)を活用してレポート作成業務を自動化しました。
結果として、標準化されたルールに基づき、内容のバラつきがなくなり、品質が向上しています。
WinActorの展開にあたっては、全社的に自動化したい業務のアンケートを実施し、社内報やポータルサイト、食堂での動画放映などを通じてRPAの認知を広げました。
また、業務を自動化する前に、「ヤメル・ヘラス・カエル」のカイゼン三原則に基づいて業務の棚卸を実施し、本当に必要な部分だけをRPA化するという全社的な取り組みにより、業務効率化を実現しています。
詳細は以下をご覧ください。
自動車部品メーカーのRPA活用術を一挙公開!/株式会社ダイナックス様
人材不足や業務の属人化など、さまざまな課題を抱える製造業では、RPAの導入によって業務の自動化が進み、コスト削減や業務効率の向上が期待できます。
自社でRPAの導入をより具体的に検討したい方は、まず実際の業務でテストを行ってみましょう。
ヒューマンリソシアでは、導入事例でも挙げたようにこれまでRPAを活用したことがなかった製造業の企業様に対し、導入から運用まで一貫したサポートを行ってきた実績があります。
無料トライアルもご提供しております。
ぜひこの機会にRPA導入をご体験ください。
また、定期的にRPAに関する無料オンラインセミナーを開催しています。
ぜひご参加ください。
【よくあるご質問】
Q. 製造業におけるRPA導入の主なメリットは何ですか?
A: 人手不足の解消
RPA導入により、製造業における慢性的な人手不足の解消が期待できます。特にバックオフィス業務では、新たな人材確保や育成の負担を抑え、人的リソースの不足を補うことが可能です。
A: 定型業務や繰り返し業務の効率化が可能
入力ミスや確認漏れを防ぎ、正確で効率的な業務遂行を実現します。
A: 生産性の向上
RPAは昼夜を問わず365日稼働できるため、業務のスピードが向上し、生産性の向上が期待できます。
A: 業務工数・コストの削減
人手に頼っていた定型業務や確認作業を自動化することで、ダブルチェックなどの手間が削減され、業務工数を大幅に削減できます。
A: 従業員の手作業が自動化され、業務上の無駄なコミュニケーションが減少し、担当者不在時でも業務が進むようになるため、働きやすい環境の構築が期待できます。
A: 人的ミスを削減し、精度の高い業務を実現
ヒューマンエラーが削減され、業務の精度が飛躍的に向上します。常に同じ基準でレポート作成などを行うことで、品質管理の信頼性と効率性が高まります。
Q. 製造業でRPAが活用される具体的な業務事例を教えてください。
A: Web-EDIを活用した受発注データ管理業務
Web-EDIからの注文データのダウンロードや、受注内容を基幹システムに転記する業務を自動化することで、手作業で対応していた確認作業や転記作業にかかる時間や人件費を大幅に削減できます。
A:在庫管理業務(確認・突合作業)
システムからの在庫データを自動取得し、在庫差異のある商品の自動抽出とレポート出力などを自動化することで、確認作業の負担の軽減だけでなく、在庫管理の精度向上と効率化を実現できます。
A:品質管理業務(製品の検査結果の転記作業)
検査結果をシステムに登録する作業を自動化することで、ミスを事前に防ぐことが可能です。さらに、異常値を検出した際には、管理者に通知を送信する設定もでき、品質管理の向上にもつながります。
A:請求書などの帳票作成やダウンロード作業
売上データを自動的に取得し、請求書の作成を自動化することで、ミスを減少させ、作業時間を大幅に短縮することができます。
A:基幹システムへ生産実績などのデータを入力・転記
データを基幹システムへの入力・転記業務を自動化することで、転記ミスのリスクを減らし、業務の効率化を図ることが可能です。
Q. 製造業でRPA導入を成功させるための重要なポイントは何ですか?
A: 導入目的を明確にする
RPAはすべての業務を自動化できるわけではないため、導入目的を明確にすることが重要です。
A:業務の洗い出しを実施する
RPA導入前に、業務自動化の対象となる業務を洗い出し、対応方法を標準化することが不可欠です。
A: 事前にRPAの運用体制やルールを整備する
導入前に「誰が、どのように」運用・活用するのかを明確にし、RPAの運用体制やルールを整備する必要があります。
A:現場担当者(使用者)に適したRPAツールを選ぶ
現場の担当者が使いこなせるよう、現場担当者(使用者)に適したRPAツールを選ぶことが大切です。
A: RPAの効果を継続的に検証・改善するための、現場との円滑な意思疎通
RPAは導入しただけで終わりではなく、継続的に効果を検証と改善していくことが非常に重要です。
成功させるためには、RPA推進担当者と現場担当者がスムーズにコミュニケーションを取れる体制を整えることが不可欠です。
本コラム内容について
各コラムの内容は、執筆時点での情報を元にしています。
最新の情報は、各社公式サイトなどを参考にすることをおすすめいたします。
各コラムの内容は、利用することによって生じたあらゆる不利益または損害に対して、
弊社では一切責任を負いかねます。
一つの参考としていただき、利用いただく際は、各社のルール・状況等に則りご活用いただけますと
幸いです。
※「WinActor®」は、NTTアドバンステクノロジ株式会社の登録商標です。
出典:WinActorの公式Webサイト(https://winactor.biz/)をもとに作成
出典:いちばんやさしいRPAの教本 人気講師が教える現場のための業務自動化ノウハウ(インプレス出版)もとに作成
出典:製造業DX 業界標準の指南書 改革・改善のための戦略デザイン(秀和システム出版)もとに作成